カンタの父ケンジさんは、100キロマラソンを完走し、フルマラソンを9回完走、3時間30分で走るすごいランナーである。
朝6時起きして、7時からコーチを受ける。
「目線はあごをあげないために、約5メートル先を見て、骨盤を前傾させて足裏の前半分から着地します」
那覇の泊まり港を走った。
「ケンジさんがフルマラソンを3時間30分で走るときのペースで一回走ってもらえますか?」
ひえ~、これじゃオレのダッシュと同じじゃん!
オレじゃ、100メートルくらいしかもたないわ。
「長い距離を週一とかで走るより、短い距離を週5日くらい走った方が体ができますよ」
はじめて個人コーチを受けたので、むっちゃ役に立った。
さて、今日はセルフストーリーオペラの集大成ともいうべき、古市佳央&佐藤誠司オペラのこけら落としである。
「古市さんと佐藤さんのふたりのオペラが見たいなあ」
このオペラは主催者ホコピーの一言からはじまった。
「がってん、お安い御用だ!」と引き受けたものの、脚本は難航した。
ふたりの脚本は章の構成がちがう。
たとえば古市さんのは第一章から事故シーンではじまるのに、佐藤さんの事故シーンは第三章にならないとでてこない。
はじめは第一章から第三章まで佐藤さんのみでいこうとしたが、これじゃふたりでやるオペラの意味がない。章ごとにふたりが交互に登場し、やがてふたつの物語が一本の川になるような脚本にしたい。
そこで思い切って、ぜんぶを時間系列に従って構成し直した。
盛り込みたいエピソードが多すぎて、20章くらいになっちゃう。
それにくわえて、新しいエピソードや笑いも盛り込みたい。
かなりのエピソードを削り、ふたりの掛け合い漫才も盛り込んで、ついに「こりゃあすげえ!」という脚本が完成した。
書きながらオレまで涙を流し、大笑いしてしまう傑作が仕上がったのだ。
いつになく古市さんと佐藤さんも緊張している。
ふたりはホテルで何度も読み合わせをしながら、練習を重ねてきた。
リハーサルでオレも驚いたよ。
この数年間で無数のステージを踏んできたふたりは、とんでもない表現者に成長していたのだ。
那覇市にある「てぃるる」には、初上演のオペラを観ようと、観客が今か今かと待っている。
司会のゆうこりんが出演者を紹介し、みきちゃんがナレーションを朗読する。
古市佳央・佐藤誠司 セルフストーリーオペラ『奇跡の出会い』
別々の場所で、
別々の人生を歩んできた二人は、
幸せの真っ只中にいました。
自由奔放にふるまい、
仲間たちに慕われ、
素敵な恋をし、
青春を謳歌していた21歳の誠司と16歳の佳央は、
突然、地獄へ突き落とされます。
笑顔も、健康な体も、生きる希望さえ奪われた二人を、
待ちかまえていたのは、想像を絶する試練でした。
「生きてる意味がない」。
「生きる価値がない」
「死んでしまおう」と思った時、
ふと、となりを見ると、
鏡がありました。
自分と同じ、いやそれ以上の苦しみをかかえる友がそこにいたのです。
本当に人を救えるのは、
医療でも神様でもありません。
出会いなのです。
佳央と誠司の出会い。
それはまさに奇跡そのものでした。
1. PUZZLE
第1章 誠司 事故1
2. 愛を知らない子供たち
第2章 佳央 事故2
3. WAR
第3章 誠司 入院1
4. 心がくしゃみをした朝
第4章 佳央 入院2
5. The answer
第5章 誠司X佳央 出会い
6. だいじょうぶマイフレンド
第6章 佳央X誠司 未来の誓い
7. 勇者の石
第7章 佳央X誠司 退院
8. ウレシパモシリ
第8章 佳央X誠司 オープンハートの会
9. MOVE! MOVE! MOVE!
第9章 フィナーレ
10. ありがとう
11、なんくるないさ(アンコール)
佐「あっ俺の好きな看護婦さんだ。気にいらね~な~」
古佐「しめるか」
古 山ちゃんは「名門開成高校から落ちた男」として有名だった。落ちたは落ちたでも受験ではなく、窓拭きの仕事中、文字通り落下したのだ。
あいつは一度開成高校から落ちてるから、看護婦の評判を落とすのはわけねえ。ようし名案を思いついた。その名も、
古佐「エッチな山ちゃん大作戦」!
古 俺たちは山ちゃんがリハビリにいっているすきに、雑誌から切り抜いたヌードの写真をカーテンの中、枕の下、食事が来たときに出すテーブル、引き出し、ベットを起こすときの回転レバー、テレビの横、あらゆるところにの隠した。
よし、これで完璧だ。これで山ちゃんの評判もまっさかさま。
古「うわっ佐藤さん、ヤバイよ。看護婦じゃなくって、お母さんがきちゃったよ」
佐「えっ、今日はお母さんが来ない日じゃなかったの?」
古「もうはがす時間ないよ」
古佐「隠れろー!」
俺たちは自分のベッドにもどりカーテンを閉める。息を殺して、耳をそばだてると、山ちゃんのお母さんの声がした。
佐女「失礼します。あらリハビリかしら」
しばしの沈黙。その声は小さく鼻をすする音から、押し殺した泣き声に変わっていく。
そこにリハビリを終えた山ちゃんが元気に帰ってきた。
佐女「あんたって子は、なによこれ。頭がおかしくなっちゃったの?」
バシーン!
古佐「しまった~やりすぎた」
古市さんをのせた車椅子を佐藤さんが押しながら登場する。
佐 いつもこうして俺が古市くんの車椅子を押し、ジュースを買いにいく。俺は小銭は入れられるけど、おつりがとれない。古市くんは小銭が入れられないが、お釣りがとれる。2人でやっと一人前だった。
古「みんなジロジロみるなー、俺たちってそんなにひどいのかな?」
佐「ああ、悔しいね」
古「佐藤さん、もう外来終わってるから外来玄関から外の世界を見に行こうよ」
佐「うわあ、ガラス一枚向こうは別世界だね」
古「人ってこんなに速く歩くんだ。俺たちの10倍くらい速いね」
佐「俺たちさあ、一生病院か施設だよなあ。みんなは退院できるけど俺たちはもうあの世界には戻れないよ」
古「そうだなあ、退院しても差別されるだろうし、仕事だってあるかわからない。もう世間の速さには追いつけないだろうなあ」
佐「なんか動物園でも見てるようだなあ。あの人たちが別の生き物みたいだ」
古「いや、これが外に出ると、俺たちのほうが動物園の見世物になるんだよ」
二人とも、大きなため息をついた。
突然、古市くんが屈託ない笑顔で振り向く。
古「ねえ佐藤さん、火傷してよかったって言える人生にしようよ」
はあ? こいつやっぱ頭がおかしいと思った。こんなホラー映画の怪物みたいな俺たちが、「火傷してよかった」なんて言える日がくるはずねえだろう。
古「この経験があるから、今の自分があるって思えるような人生にしようよ」
ふと、俺のために命をかけてくれた布先生の顔が浮かんだ。
佐「うん、約束するよ」
会場は深い感動の涙と笑いにつつまれる。
最後のシーンではふたたび 古市さんをのせた車椅子を佐藤さんが押しながら登場する。
僕たちは今、15年前病院で語った未来に立っています。
心から火傷をしてよかったって言える人生に立っているんです。
奇跡の出会いが僕たちに生きる希望を与えてくれました。
古佐「僕たちは今最高に幸せです」
明「ハネムーンかよ!」
佐「魂のオカマです」
古「本当に人を救えるのは、医療でも神様でもありません。
出会いなんです。
佐「運命は決まってませんが、出会いは必ず用意されています。
皆さんが日々出会う素敵な人もいやな人も、神様が用意してくれた贈り物です。
僕たち一人ひとりは不完全だからこそ、たがいに補い合い、助け合い、支えあい、愛し合うんです。」
古「偶然の出会いなんてありません。出会いはすべて必然なんです。
この奇跡に気がついた瞬間、世界が変わります。」
佐「あなたが今まで出会ってきた人へ、強烈な感謝がこみ上げてくるでしょう。
沖縄の皆さん、今日も皆さんと奇跡の出会いを果たしました。」
古「出会ってくれて、ありがとう。」
佐「生まれてくれて、ありがとう。」
古佐「生きててくれて、ありがとう。」
観客はステージに上がり、生きる喜びを爆発させる。
オレの魂の師匠カンタがくる!
「なんくるないさ」でダンス隊長ひろとが観客を天国へ引き上げ、倒れるまで踊ってくれた!
生まれ育ちはちがっても
いちゃりばちょーでー ちむぬわてぃーち
たとえはじめて出会っても ちちぢむーどぅ かなさぢむ
なんくるないさ なんくるないさ なんくるないさ さっさっ
死なないていどに命がけ
6
死んで花実が咲くものか ぬちがふーどぅ しでぃがーふー
しまんちゅ かみんちゅ うまんちゅ にふぇーでーびる かなさんど
なんくるないさ なんくるないさ なんくるないさ さっさっ
死なないていどに命がけ
ウチナーグチ(沖縄語)講座
なんくるないさ:だいじょうぶ
にちむどんどん:胸がドキドキ
いちゃりばちょーでー ちむぬわてぃーち:出会ったら兄弟 肝はひとつ
ちちぢむーどぅ かなさぢむ:近づいてくる人の心こそ愛しい心
ぬちがふーどぅ しでぃがーふー:命は果報 生まれたのは果報
にふぇーでーびる かなさんど:ありがとう愛してる
こんな最高の舞台を用意してくれた沖縄スタッフのみんなに感謝します!
主催のほこぴー、司会のゆうこりん、音響と照明のうえちゃん、駐車場係りのテツ&テツ、会場係りのぞうさん、写真のジュン、イサム、受付と物販のクリちゃん、ミキ、ヒーサ、ヒロト、リエ、チエミ、ハルナ、
にふぇーでーびる(ありがとう)